決戦前夜 scene1:cloud
Final FantasyZ
飛空艇のエンジン音が、夜の大気を震わしてブリッジに響いている。
月明かりと滅びの対極な光に照らされて、大地はゆっくりと鳴動しているようでさえあった。
艦橋の手摺りに身をもたせかけて地上を眺めながら、燃えるような金色の髪をした青年はふと溜息を付いた。
──5年は長かった…。
眼下に深く広がる黒い淵を眺めながら、そんな事を思う。
5年前…ニブルヘイムで起きたあの事件から──すべては変わってしまった。
自分はあのまま…ほんの少しの冒険と、平穏とスリルとがあれば良かったのに──
不意に、風が鳴る。
冷たい夜の空気…含まれるのは、嘲りか、哀れみか。
──セフィロス…
憧れだった。
その神のような強さ、名声。立ち振舞いや容姿までが彼の憧れの対象だった。
だが今や、神は死を招く災禍と成り果てる──。
再び深々と息を吐き出し、彼はそのアイスブルーの瞳を淵から虚空へと向けた。
強くなりたかった。ただそれだけなのに…
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
自分を取り巻くすべてが、次の瞬間幻となって消え去ってしまえば良いのに。
──セフィロス…
5年前の彼ではない。そう断言できたとしても、これ程の迷いはないだろう。
恐怖ではない。躊躇でもない。
では哀れみ? それとも悲しみ?
──セフィロス…白銀の翼持つ堕天使。
俺は…あいつを殺せるのか?
大切なものをすべて奪い去った者。目の前ですべてを灰にした男。…憎悪すべき宿命の相手。
哀れむべきところが無いとは言えない。
おそらく彼もまた、自分と同じようにすべてを奪われた者だろうから。
──セフィロス…お前を、殺す…
唇に乗せた言葉が、吹きつける風に飛ばされる。
迷いを断ち切れぬ彼を乗せたまままま、飛空艇の夜は更けていく…。
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